ナマケニンゲンによる隔離病棟

その辺の漂流物と納涼するような感じ

Summer Pocketsの感想と自己紹介

Summer Pocketsの前に自己紹介(読み飛ばし推奨)

 Summer pocketsはkeyから発売されたギャルゲーです。僕は購買してからずっとエロゲ―だと思ってました。

 

「肌色描写少ないな……レーティング機能してんのか?」

 

 まぁ、ギャルゲーだったわけです。Rewriteと同じ感じだったわけですね。ちなみにkey作品はこれが初めてです。アニメは色々視聴させていただいています。一番好きなのは『Rewrite』です。よく分からなかったのは『AIR』です。まぁ、アニメだけなんでしゃあないか。

 エロゲ、ギャルゲの類はそこそこやってます。近況では『サクラノ詩』と『装甲悪鬼村正』やってました。どちらもエロゲ界隈では高名なジャンルのけん引役であったのは間違いないです。まぁ、『サクラノ詩』はあんまり好きじゃないです。ペダンティックが悪いとは言いませんけど、作者だけが分かっていて限られた消費者しか分からない。そんな自己満足に似たものが嫌いなだけです。

 

 スタンスとしては

  • クリエイターは限られた時間、設備投資の中で全てを伝える義務がある。

 そんなものがあります。まぁ一消費者が何言ってんだ、って思われると思います。ですが、伝わらなかったら意味がないんです。疑問符を抱えたまま次のゲームに行ってしまったら悲しいでしょう? 作品が。

 加えて言うとBADENDも嫌いです。胸糞が悪いとかじゃなくて、物語は全てHAPPYENDにすべきだと思っているからです。だってBADENDっていうのは主人公、またはサブキャラが頑張ることができずに挫折した結果なのだから。だから主人公たちは途上なんです。HAPPYENDという結末に向かわなければならない。BADENDは旅の途中なわけです。そしてHAPPYENDを書けないということはクリエイター側に技量がなかった、というわけです。生硬なストーリーはいいです。BADENDっていう途上のまま、未完成のまま終わらせることに怒りを感じるわけです。

 そう至った経緯については別の場所で語ることができればいいな、と感じます。

 

Summer Pocketsの考察前の感想(ネタバレあるよ)

 

  全体を鳥瞰した感じ、√は全て繋がっていたと思います。ループものですから当然とお思いでしょうが、独立した個別の√全てに共通√の設定を織り込むのはなかなか難しいことだと思います。

 んなもんどうだっていいと思うので率直な感想は面白かったです。

 ちなみに順番は鴎、蒼、紬、しろはの順でやりました。

 推奨√は蒼、紬、鴎、しろはです。

 理由はこのゲームの中でかなりキーワードとなる『七影蝶』に関する話(設定)が語られるからです。他全てに『七影蝶』は関わってきます。(紬は間接的にだけど)

 次に紬を選んだのは単純においしいものは後にとっておくってことです。面白さの順番は鴎>紬>蒼=しろはって感じです。面白さの基準は、ストーリーとして、設定が活かされているかを基準にしています。

 じゃあ何で最後がしろはなの? って聞かれるとその後のTRUEEND(GRANDENDだっけ?)で中心となって関わってくるからです。

 まぁ、短期間でやる分にはどの√からやっても大丈夫です。ええ。

 それじゃ、個別√の感想に行くよ。

 

個別√の感想 考察も入るかも

                    鴎√

 ひと夏の思い出。それは時間も身体も豊富にある人にとってはどれもある一部分の中の一つでしかない。私と冒険した仲間たちにとってもそれは同義であり、膨大な記憶の中の一片でしかないのだろう。

 しかしそれは間違っていた。話したこともない、見たこともない、そんな初対面の仲間が三桁以上いる。そして初対面の仲間たちは同様に膨大な記憶の中の一部ではなく、かけがいのない記憶の中の一つとして刻まれていた。

 彼女は身の上はきっと不幸だったのだろう。しかし多くの仲間たちに囲まれた彼女はきっと幸福だった。その旅路は楽しいものになる。仲間たち、そして恋人がいるのだから。

 

 そんなお話。keyらしい『悲しさと嬉しさが同居する』話でした。

  余談ですが、僕はこのゲームをプレイするにあたり、ノートに重要な項目をびっしりと書き込んで伏線を逃すまい、としていました。大学ノートにして15枚も書き連ねる結果になりました。ですが、鴎が小説の中の出来事を体験している、ということには気づきませんでした。

 思い返してみると小説の下りはかなり重要なことでしたね。羽依里の恋した少女は小説の中の鴎で、鴎はきんぎょで。一つ言い訳をさせていただくなら、今のリーダーシップ溢れる鴎と小説の中のおどおどしたリーダーらしくない鴎は結び付かなかったということです。そういうことです。許して。

 最後まで読み切れなかったのはちょっと残念ですけど、話がおもしろかったのでよしとしましょう。

 一番好きなフレーズは『父親と一緒に世界各国旅したスーツケースだから鴎が気に入っている』というものです。文言はそのままではありませんがそんな旨のことが書かれていました。病床の身でありながら冒険心は強い、そんな性情でしっくりくる表現でした。

 

 

                   蒼√

 互いを大事に思っているからこそ、傷つけたくない、傷つけられる距離を知らない。そうして二人はすれ違ってしまう。蒼は藍に認められたくて、褒めてもらいたくて。そうしなければ有能な姉に対しての存在証明ができなくなってしまう。必要とされたかった。そんな蒼を藍は認めて上げたかった。『七影蝶』という荒唐無稽な存在を受け入れるために奔走した。しかし藍は崖に落ちてしまう。

 二人の距離を縮める術は『七影蝶』の記憶の取得が手っ取り早い。しかしリスクの伴う賭けに等しい行為。想いを伝えることは難しい。だから人は長い時間をかけて思いを伝えようとするし、感情を伝えて絆を深めるんだ。

 

 いやお前らイチャイチャしすぎやろ。そんな√です。『七影蝶』という存在の意味、そんな設定を盛り込んだので若干ダレた気がします。その設定を小出しにしすぎてテンポが悪かったんですね。あと、微妙に不満だったのが死んだ人の魂が七影蝶になる、という記述がありましたが藍が死んでないのに七影蝶はでるの? というところです。おしなべて記憶を取得していったのは失意に沈み、未練を残していくって感じでした。もしかしたら『七影蝶』の存在とPockets√にでてくる『シロハネ』の伝承は別のものなのかもしれません。その辺はPocketsで語りますか。

 ちょっと不満は残るものの、おおむね満足した蒼√。もしアニメ化するのなら嫌でもテンポはよくなるのでいい感じになるのかもしれません。というか、エロゲ、ギャルゲって無理やり20~時間にしようとして日常パート入れてる節あるよね。

 

 

                   紬√

 愛する恋人か、それとも大切な友人家族か、どちらか一方を選択することはできない。だから、時間を与えられた。しかし普通人はそんな猶予は授けられず、なし崩し的に選択してしまうことを強いられる。だが、有限というのは優しいことだ。無限に考え続けられる空間は残酷なもので、囚われて放そうとしない。一方的な善意は独善だ。

 だからツムギは紬に教えた。ここにいるべきではないと。やりたいこと、やるべきことは一直線で明快だ。私の代わりではなく、紬として生きなさい、と。

 

 紬は七影蝶そのものだと思ってた。ツムギの果たされなかった未練を継承してこの世に顕現した意味では間違いではないんでしょうけど。ツムギの生きていた記憶をぬいぐるみと共有した結果、ぬいぐるみにも記憶(未練)が染みついたってことなのかもしれない。たぶんその辺は製作者も考えてない。

 おそらく一番Summer Pocketsらしい話は紬√だと思います。夏休みという無限のように見える楽しい時間を過ごす。そんな一度は経験したことがあるであろうノスタルジックな部分に要諦として存在するゲームだと思いますから。ラストの残り時間で一生分の思い出を作るってのは逸出した展開だと思います。

 あと不満だった、というか感情移入できなかったのが静久と紬と羽依里が親友のように付き合っていたことです。どこに仲良くなる要素あったの? っていう説得力が欠けていたように思えます。ですが、無限のような夏休みを過ごせるのはたいてい小学生前後。そんなときは意味も分からず仲良くなって一緒に駆けまわっていたものです。私の指摘はテーマから外れた指摘なのでしょうね。

 そういえば、蒼√でツムギの恋人の記憶がありましたね。蒼から紬√に行った方がいいのはこういう意味もありますね。個別√の中でも繋がっているのは面白いです。あと、徹底して「かえる」という言葉をひらがなにしていたところがミソかな、と。外国に帰るというミスリードをして、本当は迷い橘に還る、若しくは記憶の中に還るという本筋を隠していたいい表現だと思います。

 最後に、この√から、というか三回目の攻略からですよね。うみの幼児退行は。幼児退行というより幼児遡行ですけど。

 むぎゅむぎゅ~♪

 

 

                   しろは√

 二鳥の鳥は群集から外れて飛んでいた。慰め合うように、いたわる様に。それは事情を知らぬものには痛ましいものに見えるかもしれないが、二鳥には関係のないことだった。彼らは愛し合っていた。そしてそんな二鳥の元に合流する鳥が一羽、二羽、三羽と増えていく。奇特で陣形なんて不格好だけれど輝いていた。彼らは永遠のように長い夏休みの終わりを駆け抜けていくのだろう。それがきっと夏休みだ。

 

 日常パートは一番面白かったです。しろはも加わって新たな味がでている島のみんなと過ごす夏は楽しさ万点でした。ですが、個人√としては地味……というかALKAとPocketsの布石張りに忙しかったようなのでしょうがないですね。

 徳田実篤というキャラがでてきましたが、日常パートに必要に迫られて作った急造のキャラ、という感じが否めません。ストーリーにとても都合がよすぎるんですね。そういえば、しろはの通っているクラブって何のクラブだったんですかね。まぁいいか。しろはを見るからに料理クラブとかその辺でしょう。

 そしてこの辺で『時の編み人』という言葉と『鏡子さんと羽依里が過去に面識がある』という情報がだされました。前者はピンとくるんですが、一番の謎が鏡子さんなんですよねぇ……。ループものに必要な立場の観測者なのでしょうか。だから瞳のことを知っていた……。まぁ親友ですもんね。その辺は後で。

 

 

                   ALKA編

  お父さんが写真を全て捨てるほどに愛したお母さんに会いたくなって過去への旅行を始めた。お父さんもお母さんも限りある夏休みの中で恋をした。それはとても楽しく、充実していて、だから囚われる。お母さんはお父さんにも言わずに呪いについて勉強した。けれどそれが祟ってお母さんは死んでしまう。お父さんも嘆いて誰も幸せにはならなかった。ならば、原因である呪いにも似た能力を消せば幸せな日々は実現することができる。しかしそれは自分の幸福な記憶を消すことと同義だった。

 

 ALKA編は不思議な気持ちを抱きました。羽未ちゃんの回想の度に嫌悪というか、怒りというか、そんなものが沸きあがるようになったんです。キャラが嫌いになったのか、と一瞬思いましたがそれは製作者への怒りでした。√をクリアしていくごとに羽未ちゃんの口調はたどたどしく、拙くなっていく。とても痛ましく、健気で怒りが沸きました。そりゃあさ、感動のためには辛い出来事を作ることが肝要ですよ。ですけど余りに羽未ちゃんが可哀想で見ていられなかったんですよ……。

 絵日記を描くことによって浮き彫りになっていく羽未ちゃんの秘密。そしてしろはが離れようとした。そして灯篭流しの日に二人はまた親子に戻る。そんな流れがあったんですが、羽未ちゃんは堀田ちゃんがあの神輿舟に乗ってみんなに迷惑かけた記憶はあるはずですよね。仮にその場所にいなくても言伝で聞いたはず。閉鎖的な島の情報なんて容易に伝わるんですから。その教訓を活かさずに過去をなぞるように同じ出来事を繰り返したのがちょっと引っかかりました。一生会えないと思っていた母親と会えるのなら、死者の世界でも行ってしまう。堀田ちゃんのは布石に過ぎなかったのかもしれません。それに羽未ちゃんは幼くなっていってましたもんね。理由付けすることは簡単ですが……まぁ腑に落ちない。

 あと、ここでしろはの能力がやっと明らかになりましたね。羽未同様というかしろはが先ですが心だけを過去に送る能力。そしてそれはあれば使ってしまう強制力がある。恐らくあのハイライトの消えた目が深層心理に存在する愛した人と過去で出会う、ということおを強制するモードなのでしょう。

 羽依里に関してですが、鴎と一緒に作った絵本の付けた部分って明かされていませんよね。二回はぐらかされて次の√で明らかになるもんだと高を括っていましたがまさか明かされないとは。その答えがTRUEENDのエピローグのことなら……まぁ結局よくわかりません。そこそこ早くクリアした勢だと思うので余り考察もないと思いますがブラウジングして確認したいです。

 而して物語というのは普遍的に主人公が解決したり、活躍する者が普通ですよね。ですから最後のPockets編で羽依里が七海と協力して呪いを解放するものだと思っていました。羽依里だけが未来から過去に戻って、って感じで。だから鏡子さんは羽依里の存在を認知していたんじゃないかって。でも羽依里は終盤までの地固め的な要素でしか意味がありませんでしたね。ちょっと期待外れです。

 最後に、ALKAって何? ネットで調べて一番有力そうなのが中国で『児化』っていうのがALKAっていうらしいです。裏取ってないので聞き流してもらっていいんですけど。『児化』ってのは稚児と化す。まさに羽未ちゃんのことをです。その中国語本来の意味は知りませんけど。

 

 

                  Pockets編

 呪いの運命が齎したものは決しては不幸だけではなかった。不幸から生まれた幸福、つまりは羽未を生み出したことだ。しかしその幸福こそが永訣のための不幸に繋がる。

 ポケットの中には大事なものをチャックをして入れていた。しかしすぐに忘れてしまって思い出した時には既に消えてしまっている。消えしまってはいるが、微かな残滓のような何かがあった、忘れてしまったことを知っている。ポケットは物を入れるだけのものではないのだろう。ポケットは記憶を入れるものでもあった。忘れないように、そして忘れてはいけない、と。そのために何か痕跡を残していく。

 

 ざーさん出現。七海も、羽未も消えちゃった。そしてSummer Pockets終っちゃった。喪失感が半端なかった。これで終わり? って。色々語り尽くせないこと残ってるよ? って。

 んで、謎として瞳(しろはのお母さん)なんだが……。この人がどういった行動原理で動いていたのか判然としない。羽未の過去改変のために自らが七影蝶になったのか。それとも本当に父親に会うためという自分本位な理由で七影蝶になったのか。前者の場合、七海が「おばあちゃん」って言ってしろはの元に何かを囁いたのが瞳だったのか。もしかしたら加藤のばあちゃんっていう路線もあるのかもしれないけど、その線は薄そうです。それで後者の理由だけど、一番悲しい理由です。鏡子さんがそんな能力があったら使ってしまう、と言っていたけどあれは瞳のことを指していたのかもしれない。それに夏休みを楽しむことが呪い打破の方法なら、しろはの為に一緒に夏を楽しんでもいいはずだ。もしそれでもしろはが能力を発現してしまうようなら人身御供となって七影蝶になるってのも遅くはないはずだ。もしかしたらはたこのおじさんに能力を伝えられて自覚した時点でアウトだったのかもしれないけど。まぁ、たぶん前者が正解でしょう。でもそうしたら手を貸してあげた同じ能力者の声がざーさんってことがおかしいんですよね。ALKA編で羽未に手を貸したときの声が瞳の声でよかったはず……。その辺は考察できる賢い人がするところでしょうね。クリアしたばかりで睡眠不足の私が考えてもいい考察はできないでしょう。

 それで、鏡子さんについてですが、安直に観測者的立場としてベンチマークしちゃっていいんですかね。というか岬っていう苗字も、結婚しているのかどうかってのも布石でありましたけど……。羽依里が蔵の整理をしている時、何をやっていたのか気になります。まぁ観測者として位置づけちゃえばほぼ解決しそうではあるんですが……。知っていたなら手を貸してくれてもいいはずなのに。羽依里が観測者だと看破して協力を取り付けて島民全員でHAPPYENDへ向かうEDがあってもいいはずです。というかそれ望んでた。

 最終的に、島民との関係を持たず、その夏はあのかけがいのない時間ではなくなってしまった。蔵で夏休みを過ごし、ただ整理を続けていた。でも、ポケットの残滓のように忘れてはいけないことを忘れた、ということを覚えていた、というか肌で感じて船から飛び降りた。羽未ちゃんのしてきたことは確かにしろはと羽依里を繋ぎとめるものだったんですね。

 

 

 総括

 楽しませていただしたのは確かですが、物語に深みと厚みを与える意味で普遍的に敵の存在というものは必要です。しかしSummer Pocketsにはなかった。しいて言えば呪いの存在ですが無形の物なのでよく分かりませんでした。作為的なものではないのかもしれません。もしかしたらあのはとこのおじさんが黒幕だったりするのかもしれませんが。

 わざと敵を作らなかったことが逆に在りし日の夏休みを想起させて共感を与えるものになったわけです。それは制作陣も作為的に行っていることでしょう。ですがやっぱ主人公の活躍見たかったんですよね……。羽依里は普通に面白い奴ですが、主人公的なかっこよさは往年のkey作品では恐らく最下位じゃないかな。このゲームのコンセプトには合っていない稀代の救出劇は必要じゃないのでしょうが、エンターテインメントとしては欲しかったですね。

 発売された季節感に合うゲームでした。ノスタルジーを感じるハイテクなスマホなどがなく、暇があったら友人と駆け巡っていたあの夏。終わることこそが、完結させることこそが、夏休みを思い出に残るものにしている。無限に続いてほしいけど、無限に続くこと、やり直すことは夏休みをスポイルさせてしまう。序盤にあった罪を洗い流す島ってフレーズは、過去に戻るという罪のことを言っているのかもしれません。個性的なキャラクターと豊富な日常パート。楽しませていただきました。ありがとうkey。